遺され村の美術展


小泉光子



「縄のある風景(縄の休憩)」        小泉光子


 この展覧会を知ったのは、昨年ピアスギャラリーで行われたギャラリズムで上田さんがプレ展示をされていて、上田さんから説明されてのことでした。美術に対する熱いものをいつも感じさせて下さる上田さんが特に思いを掛けているとても面白い展覧会だと思いました。その時、小学校の同級生で今回写真の作品を出品している安田操さんが、天野画廊から出品していた私の作品を見に来て下さり、上田さんの話を聞き、どうしても写真を撮りに行きたいと言ってきたのです。私は上田さんに安田さんを紹介しました。その時、車を持っている安田さんが行く時に私も乗せていってもらい参加させてもらおうと決めたのです。安田さんのおかげで遠いので無理だと思っていたこの展覧会への出品が叶うことになったのでした。

 下見に訪れてみると「遺され村」という言葉の暗い印象とは裏腹になんて美しい村だろう!と驚いたのでした。しかし、その風景に違和感を持たせない作品という課題はなかなか難しいものでした。

                              「縄を結うという行為は、材料の葛や藁、すなわち自然界の産物を治めて道具に帰るという神聖なものとして、自然界を治める行為の象徴とされた。日本では人間の力の及ばない「神(八百万の神)」を納め、その力を治める象徴として縄が用いられた。」(Wikipedia、日本文化の中の縄より)

 村にもともとあるかのごとく存在する美術ということを考えた時、私は縄という素材を使うことを思いつきました。私が縄を手に入れるところといえば、近所のホームセンターでした。農家で育った夫の祖母が子供の頃、冬には父親が縄を編んでいたと話してくれたことを思い出していました。最後にもやもやと出ているところを火で焼くのだと話していたように記憶していますが、あっているでしょうか。

 縄は一つは買ってきたままのきれいに巻かれた形で鉄の台に置きました。そしてもう一つは私によって少しほどかれかけた形で置きました。なにかしようとしてやめた状態を表しています。それは何も仕事をしていない縄であり、私の作品になるという仕事をしている縄でもあります。縄を置くだけで作品になるというのはどういうことかと思われるでしょう。

 それは現代美術の神様と言われるマルセル•デュシャンという人がある美術展に男性便器に「泉」というタイトルをつけて寝かせた状態で出品したことから始まりました。便器が便器の仕事をせずに美術館に置かれ作品と化すことで、作品とはなにか、美術とはなにかを考えさせたこの作品を越える作品はいまだないと言われています。そしてその作品はその美術展では認められず、便器はどこかへ行ってしまい、現在見ることができるのはそののちに用意されたものだそうです。それ以降、物そのものをそのまま展示するという作品が美術と認識されるようになったのです。

 それで私も縄をそのまま展示して、これが作品ですと言えるというわけです。そして、デュシャンと違うところは、タイトルを工夫するのではなく、1つの縄にはひょうたんが結びつけてあり、そのひょうたんにはカップルと白い家の中でベッドにひじをつき頭を抱える人が描いてあり、1つの台の下には色のついた小さな塊と盆栽の模型が置いてあることです。縄とは関係ないように見えるものを置くことで縄を美術作品にしようとする仕掛けです。「これはなんなんだ?」と疑問に思っていただけたら、それがどこかにひっかかり、日常の風景が少し違って見えたりしたらいいなと思ってしていることです。それはこの展覧会のテーマである「ケ」ではなく「ハレ」ということになるのですが、美術はどんなにひっそりとしていても全ての芸術がそうであるように実は「ハレ」であるのです。

 色のついた小さな塊は風雨でどこかに飛ばされるかもしれません。それは私が30年にわたり看板の仕事で使った絵の具の残りが固まったものを容器からはがした破片です。私が仕事に費やした時間のわずかな痕跡を長きにわたる村の時間の中に置くことで、ほんのわずかながら村の時間に寄り添いたいと思いました。そして作り物の松竹梅の模型は実家を整理した時に出てきたもので、いつどこからやってきたものかはわからない人工物です。自然の格好をした自然でないものが持っている時間もすべてのモノが持っている時間を象徴するものとして、自然の中に置いてみました。

 ひょうたんに描いた絵はボリス•ヴィアンというフランスの作家の「北京の秋」という小説に出てくるシーンです。先日開いた伊佐地恵子さんとのふたり展で取り組んだ課題の続きで、その絵の内容については私の個人的な取り組みですが、ひょうたんに絵を描くことでひょうたんがただのひょうたんではなくなる仕掛けとしました。

 設置したのは橋を渡ったところです。橋を選んだのは、他の作家さんが選んでないのではという消極的な理由でしたが、Wikipedia に「橋のたもとに橋姫とか橋姫明神とかいって,橋の神霊がまつられることが多い。山城の宇治の橋姫や摂津の長柄(ながら)の橋姫は有名だが,京都の五条橋(今の松原橋)や近江の瀬田橋のたもとにも橋姫がまつられていた。…。」という文章を見つけました。まさに橋のたもとに設置してきたので、そんな意味にもとられることがあるのかもしれないと、面白く感じています。雪の多かったこの冬、手前の橋のところにはまだ雪がうずたかく残っていました。設置できたのは橋の向こうから神社が見えるところでした。上田さんは「結界を作ろうと思ったのですよね?」とおっしゃいましたが、そう言われて初めて神社があることに気付くほど村を知ることができていないのでした。新たな気付きはまだまだありそうです。




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小泉光子 履歴
1960 東京生まれ
1980 大阪音楽大学短期大学部ピアノ科卒業
1983 吉原治良賞コンクール入選
1991 芦屋市展 芦屋市美術協会賞
1984~2010 個展52回(大阪、兵庫、東京)65
    国際交流展(ハワイ、ソウル、パリ、ブラジル)
    グループ展(大阪、兵庫、京都、奈良、東京、神奈川、仙台、福井、福島、三重)

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近年の展覧会


2017 ふたりの秘密展(in front of DADA/大阪)
   こころのカーニバル(KING OF ROOKIE CAFE/姫路)
   「透明な宇宙」展(K.Bギャラリー/神戸)
   遺され村の美術展(大津市葛川細川町集落/滋賀)
   徳本美術教室とその仲間達展(KEIDAI Gallery/大阪)4/11~5/8
   現代美術と金と◯(座•ギャラリー/滋賀)5/6~
   シューベルト生誕220年を祝して展(ギャラリー菊/大阪)5/15~20

2016 徳本美術教室とその仲間達展(KEIDAI Gallery/大阪)
   パクリ展(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)
   モーツァルト生誕260周年を祝して展(ギャラリー菊/大阪)
   gallerism2016(PIAS GALLERY/大阪)
   OIL展(スペース草/大阪)
   大マンガ展(海月文庫/大阪)
   40cm角の花畑展(LEIMOND HANAHATA Nursery School/東京)
   WaiWaiアート展(楓ギャラリー/大阪)
   個展「自由な心で」(GALLERY 北野坂/兵庫)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊/大阪)
   宝塚現代美術てんてん(宝塚文化創造館/大阪)
   POINT美杉展(Gallery VEGA/三重)
   個展「色言葉にほひがたりvol.18」(天野画廊/大阪)
   X’mas小品展(ハピィ/京都)
   丸投げ展(スペース草/大阪)

2015 徳本教室作品展(KEIDAI Gallery/大阪)
   シベリウス生誕150周年を祝して展(ギャラリー菊/大阪)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊)
   箕面の森アートウォーク(足湯前)
   個展「色言葉にほひがたりvol.17」(天野画廊/大阪)
   宝塚現代美術てんてん(友金アパート)

2014 徳本教室作品展(KEIDAI Gallery/大阪)
   個展「人生の二面性」(Street Gallery/兵庫)
   個展「気モチマーケット」(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊)
   個展「色言葉にほひがたりvol.16」(天野画廊/大阪)
   美の競演pert1(ギャラリー菊/大阪)
   Zoneテーマ展「不純美術」(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)

2013 徳本教室作品展(KEIDAI Gallery/大阪)
   個展(アトリエ2001)
   To You 展(海月文庫/大阪)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊)
   箕面の森アートウォーク2013
   個展「色言葉にほひがたりvol.15」(天野画廊/大阪)
   感覚の壁2(ギャラリー菊/大阪)
   POINT美杉展(Gallery VEGA)
   Calendar for 2014(アートスペース 虹/京都)
   開運現代アート(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)

2012 個展「赤い階段」(アートスペース 虹/京都)
   個展「旗の神様」(Street Gallery/神戸)
   アートセッション@天満橋(京阪シティモール/大阪)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊)
   個展「色言葉にほひがたりvol.14」(天野画廊/大阪)
   感覚の壁2(ギャラリー菊/大阪)
   Aiging(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)
   21世紀女性アーティスト展vol.6(MIギャラリー/大阪)
   Calendar for 2013(アートスペース 虹/京都)

2011 個展(コンテンポラリーアートギャラリーZone/大阪)
   真夏のアートフェスティバル(ギャラリー菊)
   箕面の森アートウォーク2011
   gallerism THE FINAL(大阪府立現代美術センター)
   個展「色言葉にほいがたりvol.13」(天野画廊/大阪)



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