遺され村の美術展


八太栄里


・作品紹介 朽ち果てていく真っ最中の廃墟があちこちにある。既に建物の姿は失われて、遺跡のようになった竃のあとや石垣もある。
現在では随分住人が少なくなってしまったというが、村の中を巡るとずっと長い年月、この土地で暮らしてきた人々の姿が思い浮かぶ。
なかでも、小さな村の中に点々と設置されているお地蔵さま、村の境界に佇む道祖神、シコブチさまと呼ばれるこの地域固有の神様を祀る神社と
おそらく河童のことを指しているガワタロウの伝説など、人々の暮らしの中で密にあった信仰が今でも目に見える形で残っていることは、村の先人達の気配をより一層濃くさせる。


印象的な場所は数多くあるが、なかでもこの村のシンボルは杉林だと思う。
天に向かって真っ直ぐに立ち並ぶ杉林はあまりにも美しくて神々しさを感じる。
だが、この杉はもともとは人の手が植えたものである。林の真ん中を通る道は旧道と呼ばれ、村の境には道祖神がおかれている。
この場所にも先人達の信仰と気配を感じた。
この杉林のようにシンプルで美しく、神秘的な心地はこの村全体の雰囲気に当てはまる。
今回、実際に村に滞在し、この杉林を描いた。
この村の空気や残された気配を感じながら制作する行為が重要だと思った。


この作品を廃墟の床の間に展示する。
建物の他のすべては失われてしまったが、一部分だけ奇跡的なバランスで原型を保っている床の間である。
なんとも非現実かつ美しい場所で私はこの床の間にひどく惹かれた。ここで展示出来ることはとても光栄だ。
雨風に晒され、この床の間と共に私の作品も苔むし、やがて朽ちていってほしい。
ひっそりと静かにこの村の一部になっていってほしい。そこに私の信仰や気配は残るだろうか。



・プロフィール

1989年生まれ 画家・イラストレーション作家
画材は主にアクリル絵具と木製パネル。
東京・大阪・名古屋にて個展・アートフェア・企画展参加多数。
絵画制作は私にとって、すべてのものには終末があり自分自身も決して例外ではないこと、つまり「死」をいつも意識しておくための手段です。
日常を切り取った場面は写実的でありながらわずかな違和感を作り、決して現実とはいえない世界観で記憶や存在の不確かさを表しています。
また土地の記憶や気配、そこにまつわる人の記憶や魂など目に見えないものの形を想像し画面上に表すことを目指します。


http://ellie.egoism.jp/


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